あっ、そこの街角に、大女優がいるよ。

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俺達の周りでは、たまに「ドラマ入っちゃう」人というのがいる。

いきなりアクションがかかるタイプと、普段から台本通りのタイプ。
演じているというよりは役に入り込んでいるという表現のほうが近い。

こういった人はまるでテレビドラマのようなキレッキレッのセリフをずばっと吐いたり、
日常とはかけ離れたドラマの状況を作り出してくれる。

そしてこのパターンは男性よりも女性に圧倒的に多い。
自分に酔いしれてしまい、気づけばそこにヒロインが勝手に誕生しているのだ。

photo credit: Mikey G Ottawa via photopin cc

 

ドラマ入っちゃうケース1

例えばドラマ入っちゃう女性は言う。
「○○君に告られたけどフッちゃった・・・でもね、違うの!○○君は悪くないの!あたしが全部悪いの!だから、だから・・・○○君に冷たくしないであげて・・・」

そう言って泣き出す女。

お前は一体誰なんだ。

ドラマ入っちゃうケース2

例えばドラマ入ってる女性は言う。
「あたし、皆が言うほどピュアじゃないよ・・・」

まず誰もお前がピュアなんて言ってねえ。

ドラマ入っちゃうケース3

例えばドラマ入ってる女性は言う。
「私もいつか、こんなたんぽぽみたいに優しくなれるかな・・・」

そう言って見つめる先に咲くヘチマ

ドラマ入っちゃうケース4

例えばドラマ入ってる女性は言う。

「ガンバ!」

 

黙れ!

 

 

そして、先日のこと。

先日俺はなんと、その街角ロケ現場にたまたま遭遇した。
もちろんここで言うそれは、カメラもないし、気の利いたBGMもないし、キムタクがロボットになりきって演じているような場面ではない。
そう、例の女の一人舞台のことだ。

それは俺がコンビニでココアを買って店から出た時のこと。

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(画像はイメージです)

 

「ついて来ないで!」

 

向こうで女性の声が響いた。
お、おぉ、ドラマだ。これは、ドラマや。ドラマやでぇ!

俺の視線は当然そっちへと注がれる。

女性が早足で歩き、数歩進んでは後ろを振り返る。そしてまた早足で歩を進める。
はっきりとは解らないが、けっこういい年だろうか。20代後半~30代前半ぐらい?
そして阿修羅のような怖い形相でちょいちょい後ろを振り返っては、吠えるのだ。

「ついて来ないでって言ってるでしょ!」
「いい加減にしてよ!」
「もうついて来ないでってば!」

ただこの女性は、そんじょそこらのドラマ入ってる女とは明らかに一線を画している。

なんと彼女の後ろには、

本当に誰もついて来ていないのだ。

 

すげえ。マジですげえ。
こいつはすごい。

ひょっとして、役に没頭するあまり相手が見えてしまっているのか。
それともあれか。

対象が人ではないのか。
服の背中のタグのとこについている値札とかそういうものなのか。
意識的なものではなく、霊的なものが見えている可能性も高い。
そう考えてみると超こええぞ。

もしくは、だるまさんが転んだの「ドラマバージョン」という説も捨てがたい。
ただし、鬼がすげえ早足で前にズンズン進むので、相当急がないと一生終わりません。

そして不思議なことに

段々と、後ろをつけている人(男)が見えてくるような錯覚にさえ陥った。

 

これは紛れもない本物。
大女優だ。

俺は、街角のオードリー・ヘップバーンを見た。

 

段々と遠ざかるその背中を、俺は呆然と見送った。
本当は俺の帰り道もそっちの方向だったのだけれど、別の方向を通って帰った。
とてもついて行く気にはならなかったのだ。

・・・あの後、どうなったんだろう。

あの人は今、安心して眠っているだろうか?気になって仕方がない。
少なくとも俺の気持ちは、あの人について行ってしまっている。

【おしまい】