先日、わさびの大人買いを初めて見た。
おばさんがチューブ入りわさびを10本まとめて買っているのだ。
そんじょそこらのスーパーで、まとめて10本買っている。
そんなにわさびいるか!?
10本も買ったらどうだ、
ドラクエならわさびだけで“アイテム”の項目が塞がれてしまう。
わさび
わさび
わさび
わさび
わさび
(以下省略)
おばさんの家の食卓の主人公はもはやワサビだ。
もはやご飯は、食卓の覇者ではない。
朝わさび、昼わさび、夜わさび。
『あんた、夜わさびの時間よ!早く降りてきなさい!』
―ちょっと待って母さん!今ダンジョンでセーブが!
『何度呼べば降りてくるの!だいたい、ゲームは1日30分までって決めたでしょうが!』
そりゃ子供だってなかなかご飯を食べたくはならない。だってもう既に、食事内容がわさびだと分かっているのだから。
健全な思春期にこういったわさびトラウマを植え付けられた子供はどういう大人になっていくのだろうか。
明けても暮れてもわさび、わさび。自我が崩壊してしまう。
ということで、友人にその話をすると、
『それは一般家庭じゃなくて飲食店の人かなんかじゃないか』という結論に至ったのだけれど、果たして本当にそうだろうか。
そんな簡単に決めつけていいわけがない。
俺はもっと違う所に、このチューブわさびまとめ買いの真髄があるような気がしていた。
もっと考えろ。よく考えろ。
あのおばさんが、ルイヴィトンのバッグを手に持ったあのおばさんが、チューブ入りわさびを10本も買う理由。
飲食関係だろ、と断定するのは簡単だけど、俺の推理は違っていた。
だいたい、飲食業の人がスーパーでわさびを10本だけ買うなんてありえない。そういうのは卸の業者がいるはずだ。
そこで、俺が導き出した結論はこうだ。
エヴァンゲリオン。
おそらくエヴァンゲリオンのフィギュアがわさびについているのだ。
そしておばさんはフィギュアを集めている。
おそらくこういうことだろう。もうこれしか考えられない。
多分このおばさんは以前にもわさびを大人買いしたが、中身が全部同じだったんだ。
多分すべて初号機だったんだ。それでお怒りになった。おばさんは全ての機体を揃えたかったのに。
怒りシンジ、今誰かがうまいことを言った。
だから練りわさび×10本という荒技に出たのだ。怒りに身を任せて。
だが、ちょっと待ってほしい。
全て同じ。
それは、エヴァンゲリオンを愛する者なら歓迎してしかるべきことだ。
おばさんには喜んで欲しかった。全て同じという現象を喜んで欲しかった。
わさびを大量に買って、それについてるフィギュアが全部同じだった。こんなすごい偶然ってあるか?
『スゴイわ!このシンクロ率!!高い!高い!』
こういうことだろう。こうに違いない。さすがは俺の推理だ。
でもよく思い出してみると、そういえばおばさんはチューブ入りのショウガも大人買いしていた。
もしかすると飲食店の人なのかもしれない。
【おしまい】