病気の野球少年のためにホームランを打つと約束するブロガー

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病気の少年のために

こんにちは、タクヤ君だね。

いきなりタクヤ君の病室に入ってきてすまないね。
実は今朝、君のお母さんから、連絡をもらったんだ。
ああ、本当だよ。

 

おじさん、ちょっと小耳に挟んだんだけれども、タクヤ君は今、とても重い病気と闘っているんだよね。

確かに、病気と闘うことは、とても大変だ。苦しいし痛い思いもたくさんあるだろう。うん。
おじさんも、その気持ち、よくわかるよ。

そしてタクヤ君、その病気は、手術をすれば治ると聞いているけど、本当かい?

 

・・・でも、手術は怖いんだよね。わかる、わかるよ。
誰だって、手術するのは怖いもんね。

でも、病気を治して、また友達と思いっきり遊べるようになるためには、手術をしないといけない。そうだね?

 

よし、それじゃあタクヤ君、おじさんと1つ、約束をしないか?

 

お母さんの話では、タクヤ君は野球が好きなんだよね。
なら、ベーブルースという選手は知っているかな?

ベーブルースはね、病気に苦しむ子がいる病院を訪れ、その子と約束をするんだ。
「僕が今度の試合でホームランを打ったら、君は勇気を出して手術を受けるんだ」ってね。

そしてベーブルースは約束通り次の試合で見事にホームランを打ち、
その姿に勇気づけられた少年は、決意して手術を受け、無事元気になって退院するって話さ。

ああ、だからおじさんも、君と約束をするために、今日はここに来たんだ。

 

あ、おじさんかい?

ああ、おじさんは野球選手じゃないよ。

だからホームランを打つことはできない。

あ、さっきのベーブルースはあくまで例えのやつね。例えで出したってことね。

じゃあおじさんは何の仕事をしてるかって?

 

うーん・・・いいかいタクヤ君、おじさんはね、働いていないんだ。

いわゆる無職ってやつさ。

 

いや、なんでって言われても・・・

そうだなあ、強いて言うとしたら、おじさんは人一倍忍耐力がないってところかな。
社会的規範に従うのが苦手でね。組織の中で働くというのは、おじさんには合っていないと思ったんだよ。

 

ん?おじさんかい?おじさんは今は47歳だよ。

何をやっているかって言われると、そうだな、日頃ブログばかり書いているね。
うん。ブログ。知ってる?ブログ。

あ、知らない?

知らないの?ブログ。

ちょうど今世の中を席巻していると言っても過言ではないあの「ブログ」だよ。

あー、まあわからなかったら、ネット上でなんかよくわからない文章を書いている、って認識で構わないよ。
うん、そういうこと。インターネット文章を書いて、それを全世界に公開するんだ。かっこいいだろう。

 

おじさんは、つまりそのブログをやっている。

ん?生計?

 

バカにしちゃいけないよタクヤ君。おじさんはね、ブログを書く人間、いわば「ブロガー」ってやつなんだよ。

プロのブロガーになればね、月に数百万のお金が入ってくるんだよ。すごいだろう?

 

まあ実際のところ、おじさんはまだその段階にまでいってないし、広告収入(アドセンス)の2万円と、あとは両親からの仕送りだけどね。
その仕送りがなければおじさんは生活ができなくなってしまう。
野球に例えるならまさに9回裏ツーアウトってわけだ。おじさんも崖っぷちなんだよ。

 

おじさんとの約束

さあ、タクヤ君。

おじさんと約束をして、おじさんがそれを守ることができたら、タクヤ君は勇気を出して手術を受けるんだ。
約束できるかい?

まあね、おじさんは野球選手ではないただのブロガーだけど、
こう見えてもあの野球漫画の「ドカベン」を全巻読破したことがあるんだ。

つまり、おじさんが野球を愛する気持ちは、誰にも負けないってことだ。
ああそうだ、絶対負けないよ。

 

だからおじさんは、ブロガーとして、タクヤ君のためにホームランを打とうと思うんだ。

 

そうだなあ、例えば、

おじさんは普段、ガジェット関連のブログを書いている。
お金はないけど、スマホやタブレットは好きなんだ。それ関係の記事を書いて、軽くバズったこともあるんだよ。

あ、バズるっていうのは、その、とても人気が出るってことだよ。
おじさんの記事は、ナウいヤングにバカ受けなんだ。

 

そこでだ、おじさんが、何かしらのガジェット製品関連のメーカーから、製品レビューのオファーをもらったら、
タクヤ君が手術を受けるってのはどうだい?

んー、我ながらいいと思うなあー。
これは野球選手で言うところのホームランに匹敵すると思うんだよね。

ブロガーにとって、企業から製品レビューをしてくれと頼まれることは、この上ない喜びなんだよ。
今だったら、モバイルバッテリーのレビューなんかいいんじゃないかな。

 

どうだい、タクヤ君?これでおじさんと約束できるかい?

 

 

・・・え、無理?無理?こんなんじゃダメって?

弱ったな、タクヤ君もなかなか手ごわいんだね。

 

 

じゃあ、そうだな、こうしよう。

おじさんが、自らの呼び名を「ブロガー」から「メディアクリエイター」に変えたらどうだい?

そう、「メディアクリエイター」だ。

 

ん?呼び名を変えることに意味はあるのかって?
そりゃもちろんだよ。

今このご時世に、自分のことをメディアクリエイターなんて呼んでごらんよ。鼻で笑われちゃうよ。
おじさん、この歳で若い人たちに鼻で笑われちゃうよ。
そりゃそうだよ。だって何してるかわからないんだもん。

 

でもね、いいかい、タクヤ君。

あえて自ら、何をやっているかよくわからない名称に変えることで、
「何かしらの実績を残さなければ!『メディアクリエイター』として恥じない存在にならなければ!」と
自分自身を鼓舞することができるんだよ。

これは、業界的にもかなり画期的だよね。

 

どうだい、タクヤ君?

これなら、おじさんと約束できるよね?

 

これなら野球選手でいうところのホームランに匹敵するだろうなあ。うんうん。

タクヤ君、知っているかい?

今までの日本のプロ野球界において、
ホームランの最高齢は岩本義行選手の45歳なんだよ。

ということは、おじさんは今47歳だから、
おじさんが自分をメディアクリエイターと名乗れば、岩本選手の記録を大きく更新することになる。

 

つまりこれは、歴史的なホームランの瞬間なんだよ。

 

タクヤ君は、歴史的快挙を目の当たりにしようとしているわけだ。

これなら当然、手術を受けると約束できるね?

 

 

・・・ん?ダメ?え、ダメなの?

ホームランだよ?歴代最高齢のホームランだよ?もっと有り難みを感じてもいいんだよ?

 

 

かくなる上は・・・

いやー、タクヤ君。

正直言うとね、おじさん、タクヤ君はもっとすんなり約束をしてくれるものだと思っていたよ。

君のお母さんから頼まれた手前、やっぱりおじさんとしては、
タクヤ君に手術を受けてほしいと思ってるんだ。

その約束をするにふさわしい条件を提示してきたつもりだけど、どうやらそれも無理らしい。

 

だったら、これはどうだろう。

おじさんが今両親からもらっている仕送りをストップし、なおかつ、ブログに貼っているアドセンスの広告を外せば、
タクヤ君が手術を受けるんだ。

 

どうだい、これはすごいだろう?

おじさんは自分の収益の要である2本柱を一気に献上しようとしてるんだ。

仕送りもストップし、アドセンスもなくせば、
おじさんのライフラインはほぼ完全に止まる。
そうなったら、おじさんは本格的にアフィリエイトをやって生活することになる。じゃないと食べていけない。

おじさんはアフィリエイトのやり方もしらないし、
ましてやアフィリエイトなんてものはそう簡単に儲かるわけがない。

だから今まで、アドセンスをペタっと貼るだけの広告収入でやってきたんだよ。

 

そこに加えて両親の仕送りも断るってんだ。おじさんの覚悟が伺えるだろう?

これはおそらく野球で言うと2ランホームランに匹敵するだろうね。

 

どうだい、タクヤ君?これなら、約束できるよね?

本当は2ランホームランだから、タクヤ君は2回手術を受けないといけない計算になっちゃうけれども、
ここは大目に見て1回でいいんだよ。
大サービスじゃないか。

 

タクヤ君、これでおじさんと約束してくれるかい?

ん?

ん、これもダメなの?え、なんで?

 

というかタクヤ君、一回テレビ消そうか。ね。

おじさんが話をしてる時はちゃんとおじさんの方向いて聞いてほしいな。

おじさん泣きたくなっちゃうよ。

 

 

・・・うーん。

2ランホームランでもダメか。。。

タクヤ君、本当に君は病気を治したいんだよね?早くみんなと遊べるようになりたいんだよね?
だったら、君は手術を受ける必要があるんだ。そうだろう?

その勇気を奮い立たせるために、おじさんはここに来たんだ。

おじさんの気持ち、伝わったかい?

 

あ、そう、でも約束はできないんだ?本当に?強がってるだけとかじゃなくて?

あ、そう・・・

 

ま、まあ、でも、よ、よかった、かな・・・。うん、正直、よかったかな・・・

正直なところ、支払いとアドセンス止めるのはおじさんも相当な痛手だもんね。
おじさんの生態系が崩れちゃうからね。

まあー逆によかったかな。うん。逆に。これで手術受けるって言われてもおじさん困ってたからね。
うん、結果的に。結果的にすごくよかったよ。

うん、うん。本当に。

 

 

じゃあ、タクヤ君、これならどうだい?

これはおじさんのブロガーとしての沽券に関わることだから本当は嫌なんだけど、
タクヤ君の輝かしい未来のために、一肌脱ごうじゃないか。

 

タクヤ君、じゃあ、おじさんが、

東京を捨てて高知に移住して、トマトを育てながらブランディングを行い、毒にも薬にもならない一介の文章を有料noteで販売したら、
タクヤ君は手術を受ける。

これならどうだい?

 

これは野球で言うなら満塁逆転サヨナラホームランだと思わないかい?

 

・・・えっ、無理?

 

・・・まあ、そうだろうね。

「高知に・・・」のあたりからすっごい渋い顔してたもんね。そりゃダメだよね。
なんかそんな予感してたよ、おじさん。

うん。

 

あぁ、ダメか。

 

タクヤ君のためにおじさんもできることをやりたかったんだけどな。
そうか、手術、受けてくれないのか。

 

これは、弱ったな・・・

 

そして、少年がついに

 

 

 

・・・ん?

えっ、タクヤ君、今、なんて・・・?

 

受ける?

手術、受けるのかい・・・!?

 

ほ、本当かい!?

おじさんと、約束をしてくれるのかい?

そ、そうか、よかった!よかった!!
ありがとう、タクヤ君。ありがとう・・・!!

 

 

え、でも、えっと、・・・  どれで!?

どの件との約束なのかな、それは、えっと・・・?

 

・・・ん?

あ、違う・・・ん?

 

逆??

 

逆ってどういうことだい、タクヤ君?

ん?

 

あ、タクヤ君が手術を受ける、
だからおじさんが勇気を出して、ブロガーなんかやめて就職してくれと、

あ、そういうことか!

 

なるほどなるほど、さすがだなあタクヤ君。
おじさんとそんな約束をしてくれようとしているのかい。

すごいなあタクヤ君は、はっはっは。

 

 

・・・

 

 

 

 

 

・・・

 

 

タクヤ君、それは無理だな・・・!

 

【おしまい】

 

参考:バカリズム「誰がために」