突然だが、俺は兵庫県出身である。
しかも、どちらかというと大阪寄りではなく岡山寄りの兵庫県出身である。
これが何を表すかというと、テレビ大阪が映らないということ。
今となっては別にテレビ大阪が映らないことは大きなデメリットではなく、せいぜいアド街が見れないだけのものだけど、
子供の頃の俺にとってはそれが大きな死活問題になっていた。
それは、アニメ「ポケットモンスター」が映らないということである。
たとえ火の中草の中あの子のスカートのパンツの中に忍び込んで、「君のパルシェンに俺のディグダを戦わせてやる!」というようなことがあったりなかったりするあのアニメ。
俺の記憶では確か毎週木曜の夜7時にやっていた。
なぜか当時、俺の住んでいる地区では富裕層、ブルジョワが多く、
BSなんちゃらチューナー的なものを取り付けていたため、普通にテレビ大阪で放映されるポケモンが視聴できたのだ。
しかしウチでは「そんなもんいらんやろ」という両親の声に負け、テレビ大阪をまともに見ることは叶わなかった。
まったく映らなかったわけじゃないけど、ほとんどザーーーっていう砂嵐。
しょうがないから友達の家で一緒に見せてもらったりもしてたんだけど、夜7時といえばだいたいご飯時。「うちそろそろご飯食べるからdai君帰って欲しいな・・・」という友達の親の視線を子供ながらに察知していたため、あまり満足にポケモンを見れた試しがなかった。
そこで培われるスキルは、「いかにして砂嵐のテレビ大阪からポケモンの情報を認識するか」である。
テレビから5メートルぐらい離れて、目を細め、ザーーという轟音の中からうっすら聞こえるキャラクターのセリフを聞き取る。
そんな努力でもしないと、クラスのポケモン談義についていけない。「ロケット団がさ~~」っていう会話についていけない。
クラスのみんなが「なんだかんだと聞かれたら!」「答えてあげるが世の情け!」って言いながらはしゃいでいるあのテンションについていけない。
現代の学生がLINEをやっていなければ村八分にされるように、
当時の俺達の間では、ポケモンを見ていないこと、それはすべからく死につながることなのだった。
電波を物理的に受信するための努力
関西圏に住んでいる人なら同意してもらえるかもしれないが、
我が家ではTBS(毎日放送)が4チャンネル、テレビ朝日(朝日放送)が6チャンネル、フジテレビ(関西テレビ)が8チャンネル、日本テレビ(読売テレビ)が10チャンネルで、
そのフジと日本テレビにはさまれた9チャンネルこそが、伝説のテレビ大阪へのエントランスだった。
どうにかしてテレビ大阪を見たい。
入り込みたい。
俺はそのために、様々な努力をしてきた。
なんとなく部屋を暗くしてみたり、なんとなく逆立ちをしてみたり、
なんとなく学校で使った透明な赤と緑のセロハンを使った特殊メガネを開発したり、(↓こんなやつ)
それはそれは涙ぐましい努力だった。
全てはポケモンのため。ポケットモンスターを手中に収めるため。
おそらく、当時の俺は主人公のサトシよりも頑張っていたのではないか。
ある日、そんな慎ましい努力を重ねている俺に母親が言い放った一言がある。
「テレビ叩いてみたらいけるんちゃうん?」
それは「だいたいのものは叩けば直る」という神話を信奉する母親らしい言葉だった。
リモコンがきかない時は電池のフタをあけてコロコロすればまた復活するという信条を持っていた母親。
食べ物をテーブルの上にこぼしてしまった時は3秒ルールならぬ30時間ルールでまた再び口に入れていた母親。
そんな母親からX染色体を受け継いだ俺は、ものは試しにテレビを叩いてみることにした。
テレビを叩け、心赴くままに
バンバンバンバン。
ばんばんばんばんばん。
俺はリズミカルにテレビをちょくちょく叩いては、テレビ大阪が映るかどうかを神に祈った。
途中から俺の妹も参加し、ばんばんとんとん叩いていた。
もちろん全力で叩けば何らかの故障につながるので手加減はしているのだが、
だんだん心地よくなってきた俺達の手に、熱はこもってきた。
そして、俺達はリズミカルに叩きながら、歌を歌い出す。
夢じゃない~!あれもこれも~~!
その手~~でドアを~~~ 開けましょう~~~!
曲は当時流行っていたウルトラソウルである。
その後、
そして~~~かがや~~~く
ウルトラソウッ!ハァイ!!
に合わせて力強くテレビを叩く我々兄弟。
客観的に見ればキチガイである。
当然それでテレビ大阪が映るかといえば映るわけでもなく、
むしろ砂嵐はよりいっそうひどくなってしまい、わずかにあったテレビ大阪の面影はほとんど消えてしまうこととなった。
あぁ・・・ピカチュウ・・・俺達のピカチュウが・・・
祝福が欲しいのなら・・・
悲しみを知り・・・
一人で泣きましょう・・・
【おしまい】