揺りに揺られて揺り揺られ

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俺は大型家電量販店が好きだ。

あの広い店内。
大型の電気屋と言えば何でもある。何でもそろっている。そんなイメージ。
特に大阪・梅田のヨドバシカメラはもはや「無いものは無い」というぐらいだ。

俺は大型家電量販店が好きだ。
時間なんかいくらでも潰せる。一人で行っても、それほど一人を感じない。

 

その日も俺は用もなく広い店内をブラブラとしていた。
もうこの時期から売り出している扇風機に向かってあーってやったり、
最新スマホの画面をソフトタッチで意味なくすいーっすいーっってやったり、
冷蔵庫のドアにはさまれてみたり。

うん。面白い。実に面白い。
どのフロアも楽しい。面白みがすぐに見つかる。

新型のパソコンはそれだけで興味を惹かれるし、
お米からパンができてしまうという機械なんて見るだけでワクワクする。
日本の技術の集大成が、家電量販店に集まっているといっても過言ではない。

 

なんといってもマッサージチェア

電気屋に置いてあるマッサージチェアはかなりの高スペックだ。
そこに長時間ずっと座っているおじいちゃんを見かけることも多い。

気持ちはわかる。
俺だって、できることなら1日中マッサージチェアに座っていたっていいぐらいだ。
なんなら飲み物でも持参して、本でも読みながらおしゃれなティータイムをしゃれこみたい。
まあそれなら1台買って家に置けばいいんだけど、なかなか置く場所もなければ買うお金もない。俺にとってのオアシスはこんなにも、近くて遠い。

 

再び歩き出し、今度は「顔のマッサージ器」なるものを試した。
振動効果で顔の筋肉が引き締まり、シュッとするらしい。

本当だろうか。
ヴィーンという音と共に、俺の顔が刺激される。一時期流行ったアブトロニックを顔につけているかのようだ。

近くの鏡に向かってカッコつけてみる。
効果があるのかはわからない。
近くの店員が俺に向かって「シュッとしましたね!」と言った。
一瞬買いそうになった。危ない危ない。マルチ商法の被害者の気持ちが少し分かった。

 

 

一世を風靡した伝説の乗馬マシン

とあるフロアを散策しているときのことだった。

ん、あれは?何だ・・・?
俺の目がそれを捕らえた。存在は知っている。見たことある。確か何年も前に流行ったやつだ。
が、経験したことはない。
おそらく今のこのタイミングを逃せば、これ以上今後近づくことはないのではないか。今生の別れになるのではないか。

 

ジョーバ。

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知らない人はほとんどいないであろう、伝説のフィットネス乗馬マシンである。
これに乗るだけで運動不足が解消されたり、ウエストが細くなったり、ある日いきなり空から2億ぐらい降ってくるようになると言われるあの乗馬マシンである。

参考→乗馬フィットネス機器 ジョーバ

 

へえー。こうなってんだ。
俺は何の気なしにジョーバにまたがった。あくまでもクールに。
落ち着け俺。メリーゴーランドに乗る子供のような高揚感を持ってはいけない。あくまで大人として、流行る気持ちを押さえて、大人として、ジョーバにまたがった。

そしてジョーバの動くスピードを設定した。
俺は迷うことなく、最強を選んだ。「さあ、お手並み拝見。」と言わんばかりに。

 

ジョーバは動き出す。
俺のお望み通り最強のリズムで。最強で。

グワーーングワーーングワングワングワングワングワングングングングングワングワン

 

 

 

お。

おおっ。

 

・・・え?

 

 

おっ、ちょっ、ちょっと、ちょ、えっ、
なにこれ、ちょ、ちょっと待って!待って!はやい!速い!!
おかしいおかしい、ちょっと、まって、マジで!まって!
手がとれる!とれる!!ちょっ!!!!

 

「あっ!あっ!あっ!!!あっ!!あんっ!!!」

 

揺れに合わせて変な声が出る。というか一人電気屋で喘いでいる。
誰かに録音されていてこれを耳元でリピートされたら恥ずかしさでのたうちまわって死にたくなるような、
この世の終わりとも思える断末魔を発する俺。こいつはとんだ生き恥だ。

 

 

ちょ!ちょっと!無理!無理!!まって、とめて!止めて!!
いや、ちょっと!!!、止まらん!!止まらん!これどうやんの、これっ!

激しくジョーバが揺れているため、停止ボタンを指が捕らえきれない。

「あっ!あっっ!!あん!あっ!!あっ!」

マジで!助けて!!マジで!!ちょっと!!!!誰かー!あっ、誰かー!!

 

・・・5分ほど格闘しただろうか、
なんとか停止ボタンを押し、ジョーバが動きを止めた。

はぁ・・・はぁ・・・
なんだよこいつ・・・化け物かよ・・・パナソニックはなんてものを世の中に送り出しやがったんだ・・・

今この広いフロア内で、これだけ息を切らしているのはおそらく俺だけだろう。
そして何が一番辛いって、ようやく少し落ち着きを取り戻し、ちょっと冷静になった時だ。ああ、やっちまった。己のご乱心を省みて、とにかく死にたくなる。どうしよう、知り合いがもし見ていたらどうしよう。
ああ、帰りたい。消えたい。もういっそ私は貝になりたい。

近くにいたちっちゃい男の子に見つめられている。
超恥ずかしい。とても気丈になんか振る舞えない。騎乗だけに。

 

 

その後、俺は家に帰り、静かに布団に入った。
体も痛いし心も痛い。
でもそれを癒してくれるマッサージチェアはない。

ああ、恥ずかしい。

今頃あの電気屋は大爆笑だろう。

「おいwwwさっきの客みたかよwwwwジョーバで必死に揺られて変な声出してんのwwww」
「ほんとウケるわwwwwおでんくんみたいな顔してwwwwwww」

 

ああ、表に出られない。こんなんじゃお嫁に行けない。
もう外を出たくない。

「ジョーバが痩せる」というのは、ある意味本当なのかもしれない。

 

【おしまい】